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バラの名前といえばほとんどは外国名で表記されている。そんな中で、日本名のバラがこんなにもあったとは驚きであった。これからはもっと多くの品種が出回ることだろうが、和名のバラもどんどん成長していってほしいものだ。 |
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<伊豆の踊子> 塩田公子
私は、近年バラの美しさに目覚めた。国文学を生業としているものの常というか、義務というか、「桜」を愛さねばならないというしばりを勝手に作り、そしてそれに背くという、後ろめたさというより、むしろマゾヒスティックな快感を感じつつ、バラに夢中になっている。数え切れない種類のバラがあるので、かけだしの『ロザリアン』としては、見るもの聞くもの、すべてのバラがほしくなる、いくら手に入れてもまだ足りない、という思いの中、庭の広さや、手入れができるかという現実問題に直面して、我慢をしているだけである。
なかでも、私が気にとめるバラは、名前が日本語名で、しかも、文学や、歴史を背景にした名前がついていると、作出者はどうして、このバラにこの名前をつけたのかなと、その花の色や、形を名前の背景に想像することが、すごく楽しいのである。
最近は、日本でも多くのバラ育苗家が毎年多くのすばらしいバラを作出して、愛好家の気持ちをそそっている。特に、バラの一大産地と言われる岐阜の、河本バラ園に、本当に、幸運なことに、バラ会に入会してすぐに、『オープンガーデンツアー』で、立ち寄ることができた。
朝、各務原の市役所の駐車場にはるばる名古屋からたどり着いてほっとしている私は、「はい、塩田さん、車だしてね!同乗者はこの人達」と地獄の閻魔の通達のように、有無をいわさぬ無慈悲な事務局長様の声が聞こえ、「え???」と仰天。だがしかし、先輩諸氏のすばらしいお庭を拝見、まあ、「ついていけない!」という一言しかなく、己のこれからの前途多難を悟ることができ、そして、河本バラ園では、持参したカタログに、河本純子先生のサインを頂き、本当に、有意義な一日で、まあ、のっけに聞いた閻魔大王の声は、「許そう!」という思いに至った。
河本純子氏に、作出したバラに名付ける場合は、どのような思いでつけるのかと、聞けばよかったと後悔したが、しかし、河本バラ園のバラたちは、皆おしゃれな外国語名のようである。
そしてこの春、『伊豆の踊子』という名のバラを手に入れた。
咲くのを楽しみに育てた。濃い黄色い花が咲いた。
そもそもノーベル賞作家のだれでも知っている名作の名前を冠するバラがあること自体楽しいのだが、この名前はなぜついたのかと調べてみると、『伊豆の踊子』は日本人が作出したのではなく、2001年フランスで、バラの育苗家一家として名高い、メイアン家のアランメイアンが作出したということだ。なんで?フランスでと思ったら、容易に、川端康成さんがノーベル賞を取ったときに、海外が注目したからかなと思いついたが、氏の受賞は1960年のこと。調べてみると、フランスの『パガテル公園』の姉妹公園の『河津パガテル公園』という公園が、伊豆の河津にあり、そこに、アラン・メイアンが贈ったバラだということである。この伊豆にある、公園は、現在1100種類、6000株のバラが咲きそろう、フランス庭園式ローズガーデンということだ。つまり、『伊豆の踊子』の発祥の地が、「河津」ということになっていることからついたらしい。『伊豆の踊子』を数年来講義で取り上げている私は、「え!」「なんで!」と思ったものである。
まあ、実際に『伊豆の踊子』を読んでみるとわかるが、川端の分身である一高の学生と、踊り子達がたどったのは、天城峠を越え、下田街道を歩いたので、伊豆東海岸にある「河津」を通ったわけでない。しかし、学生が踊り子と二人で、急な間道を上って峠の上から、伊豆の大島をながめるところの描写に、「河津川の行く手に河津の浜があかるく開けていた」という記述がある。そして、学生が下田から乗った帰りの船の中で、踊り子との別れに涙する学生に声をかけてくるのが、河津の工場主の息子で、彼は一高の入試の準備で上京するのである。この程度で、河津が『伊豆の踊子』発祥の地というのも、どんなものかと思うのだが、「伊豆は広い!」ということか。しかし、咲いた花のイメージと、踊子「薫」がなかなか重ならないのは多少不満ではあるが。
こうして、いろいろと探ると、バラの名前一つにもさまざまな背景や、それをつなぐ人間の想像力のおもしろさに心躍る思いがする。今後も日本語の名前をもつバラをいろいろとたどっていきたいと楽しみにしている。
岐阜ばら会 会誌 ばら 第71号 (2014年4月6日発行) |
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中段下の画像(しのぶれど以下の画像)は、花フェスタ記念公園以外での撮影です。 |
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