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山形領に立石寺といふ山寺あり。慈覚大師の開基にして、殊に清閑の地なり。一見すべきよし、人々の勧むるによりて、尾花沢よりとつて返し、その間七里ばかりなり。日いまだ暮れず。麓の坊に宿借り置きて、山上の堂に登る。岩に巌を重ねて山とし、松栢年旧り、土石老いて苔滑らかに、岩上の院々扉を閉ぢて物の音聞こえず。岸を巡り、岩を這ひて、仏閣を拝し、佳景寂寞として心澄ゆくのみおぼゆ。(おくの細道)
山寺は、正式には宝珠山立石寺といい天台宗の古刹で、貞観2年(860)に慈覚大師が清和天皇の命を受けて開山した。比叡山延暦寺の別院で、東北を代表する霊場として知られている。宝珠山全域を境内とし、岩の急斜面にへばりつくようにして諸堂が散在しており、1015段の石段を上った奥の院からの眺めは素晴らしい。元禄2年(1689年)松尾芭蕉が立ち寄り、「閑かさや岩にしみ入(いる)蝉の声」の句を残している。
息を切らしながら登ってきたあと、五大堂での一休みは格別爽やかである。風の心地よさに身を委ね、眼下に見える家並みや列車の通り行く様を眺めていると、一句うかんでくる。日本の音風景100選に選ばれている。 |
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