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「トラピスト修道院」は北海道、渡島半島南西部、北杜市三ツ石の地、津軽海峡と函館山を臨む丸山の中腹に立っている。古くは「渡島当別男子修道院」の名で知られていた。
トラピスト修道院は通称で、正式名称は、東方2.5kmにある、葛登支(かつとし)岬にある葛登支灯台(明治18年完成)にちなみ、「厳律シトー会・灯台の聖母トラピスト大修道院」である。外界との接触を絶つように、堅く閉ざされた門と高い塀に囲まれている。
函館市街では、湯の川温泉や空港に近い「トラピスチヌ修道院」が観光コースの定番で賑わっているが、本修道院は、函館駅から西へ25km、車で40分ほど、鉄道では渡島当別の駅から徒歩20分ほどの行程で、一般的な観光コースから外れているせいか、閑静であり、修道院らしい雰囲気が感ぜられるところである。
沿革
明治29年(1896)にフランスから数名の修道士が来日して、津軽海峡を眼下に臨む当地にトラピスト修道院を設立した。翌年、フランス人、ブリックベック修道院の副院長、D.ジェラール・プウイエ(後年、日本に帰化し岡田普理衛と改名)が初代院長として赴任してきた。
トラピストの歴史は古く、その起源は11世紀までさかのぼる。聖ロベルト(1018〜1111)は、現在のフランス・シトーの地に新修道院を1098年に創立し、ここからシトー修道会が生まれた。1664年にシトー修道会に属するフランスのトラップ修道院でより厳格な生活を望む改革運動が起こり、この流れを汲むものをトラピストと呼ぶようになった。
トラピスト修道院はカトリック教会に属し、日本国内には七つの修道院(その内五つは女子でトラピスチヌとして知られている)を持ち、国外には137の修道院(その内、50は女子)がある。聖書の教えと聖ベネディクトの修道戒律に従い、「祈り、労働、聖なる読書」を中心とした観想生活を送っている。
施設
■正門
正門駐車場から、舗装された急坂を登りきった奥に正門建屋がある。レンガ造り左右対称の平屋(一部は二階)建てで、ファサード頂部にキリスト像が安置されている。建築年代は不詳であるが、大正初期に撮影画像には本館建物のみが、昭和11年に撮影画像には本館の前方に本建物が見えるので、大正中期〜昭和初期の建築と思われる。 |
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内部正面には、頑丈な鉄柵と左右の出入扉が設置されていて、院内には立入りできない。
鉄柵にはラテン語と日本語の飾り文字が取り付けられていて格調を高めている。
MONASTERIUM BEATA MARIA VIRGINIS DE PHARO
灯台の聖母トラピスト修道院 |
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また、文字列の左右には、聖ベルナルド像と聖ベネディクト像が取り付けられている。
内部左側には、展示室があり、白を基調とした部屋になっている。写真と説明が中心のトラピスト修道院の資料展示が行われていて、その内部、歴史、修道士の生活の一部を窺うことができる。
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■本館
鉄柵の隙間から前庭を通して遠方に、白枠尖頭アーチ窓の赤レンガ造り、中世ゴシック風の美しい本館建物が見えるが、その左右端部は植栽で遮られて見えにくい。
年月の経過で建物は次のように変遷をしてきている。
明治29年(1896) |
木造建物が竣工。しかし、明治36年(1903)に焼失。その跡地に耐火性の建物での建て替えを決意。 |
明治41年(1908) |
現本館が竣工。設計者は不詳。左右対称の二階(一部三階、地下一階)建てのレンガ造り。近くの石別中学校付近からとれた粘土をレンガの材料にしている。ファサード頂部にマリア像が安置されている |
昭和13年(1938) |
北側に木造二階建てを増築。設計は、横浜のカトリック山手教会を設計したチェコ出身のヤン・ヨセフ・スワガー。 |
昭和40年(1965) |
既存建物の西側に木造二階建てを増築。 |
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●修道院に至る並木道
修道院への800mにおよぶ直線の道(町道トラピスト通線)はレンガ風の舗装が施され、杉とポプラの高木が両脇に続き、「ローマへの道」と呼ばれており、静寂な空間と厳粛な空気を感じる。
古くは、並木道から修道院の建物の全景が遠望できたが、昭和35年(1960)に植栽された樹木が成長し、現在では、ファサード中央部のみが望める。
●カトリック当別教会
正門駐車場に面して八角形のキリスト教会がある。これは、大正6年(1917)にロマネスク様式で創立された聖堂が平成5年(1993)の奥尻島地震で損傷を受け、その2年後に外観を一新し再建されたもの。地元ではリタ教会と呼ばれ、その形から「まるみ堂」とも呼ばれている。司式は修道院の司祭によって行われ、修道院内で修道士が行うミサと同じ雰囲気が感じられる。
●修道院製酪工場売店
教会の左隣にある売店では、本修道院に関係する様々な製品が売られている。
中でも修道士が作る酪農製品が有名で、トラピストバターを使ったクッキーやソフトクリームは濃厚で人気商品である。 |
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正面は、海岸方面へ至る800mの並木道、その左の建物は当別教会、左端は売店。
■その他
●新聖堂
昭和49年(1974)にシトー会の伝統を生かし、新典礼に即した新聖堂が本館の東側に竣工。彫刻家の船越桂氏制作の「聖母子像」とルクセンブルグ製のパイプオルガンがある。外側からは、見えにくい。
●新館
昭和49年(1974)に修道者・来客棟としてコンクリート造り二階建て建物が新聖堂の東側に竣工。外側からは見えにくい。ー創立当時に比べ、現在の本館付近は、ロの字に建物が配置されているように見えるー
●西側建物
昭和12年(1937)に、敷地の西側に、食堂、ノビシア(修練院)、病室らのレンガ作り二階建ての建物が竣工。外側からは見えにくい。
●ルルドの洞窟
カトリックの聖地として有名なフランスの「ルルドの洞窟」を模して明治44年(1911)に造られた。年月の経過で風化荒廃して修復不可能となり、平成元年(1989)、200m手前に新たに造られた。洞窟の右手にマリア像がある。現地は修道院の裏山で、そばの展望台から海、山の景観と修道院全体の様子を見ることができる。
ただ、現地までは、正門駐車場から左に塀沿いに周り、途中に修道院墓地を経由して1.5kmの行程で、山道、階段もあって徒歩30分を要する。人の気配が無く、「熊に注意」の看板が立っていることもあり、訪れる者は少ないようだ。
■修道士の生活
修道士の一日は、早朝の3時半起床に始まり、20時の就寝で終わる。
ミサ聖祭と、一日七回の祈りをささげ、労働と聖書を中心とした読書からなる共同生活を送っている。食事中は沈黙し手話しで意思疎通を行う。
現在では、修道士20数名が厳しい自然と戒律の中で、自分たちで生計をたてる労働(酪農、菜園、果樹園、庭園ら多岐にわたる)、祈りの日々を送っている。
■見学
一般者の内部見学はできないが、男性の少人数1組が、事前予約後、特定日(現在のところ、毎週火曜日14時〜)に修道士の案内付きで参観できる。
(2019年2月現在)[画像と解説文は I・H さんの提供] |